
「広告費をかけても、反応が薄い」
「SNSを頑張っているのに、売上につながらない」
地域で事業を営む方から、そんな悩みをよく伺います。
群馬県桐生市のアパレルブランド「ezu」は、広告をほぼ使わず、売り込みもせず、お客さま一人ひとりとの関係を築きながら成長し続けています。
あらためまして、ウェブ解析士マスター、マーケターの平岡謙一です。
本記事では、自社商品・サービスを多くの方へ届けたい方々が抱えがちな悩みに答える仕組み「スナックのママ・マーケティング」をお伝えします。それは、スナックのママが常連客と築くような、お客さま一人ひとりとの深い関係から事業を育てる考え方です。
執筆:平岡 謙一(ウェブ解析士マスター)
編集:ふじね まゆこ(ウェブ解析士/上級SNSマネージャー)
月に7日間だけオープンするアトリエに行列ができる理由
JR両毛線 桐生駅から水道山に向かって歩くと、アトリエショップが見えてきます。毎月1日から7日まで、AM11:00からPM4:00までオープンするアパレルブランド「ezu」の直営店です。
ezuのデザイナー 岩野久美子さんは、幼少期から服作りに親しみ、今や世界で活躍するクリエイターです。パリコレクションをはじめ、香港、バンコクのファッションショーへの参加経験をもち、国内のセレクトショップだけではなく、中国、マレーシアに販売拠点を持ちます。
私は、ezuの前身であるリップル洋品店の時代からサポートしてきました。事業が伸びてきたタイミングで、2024年11月に私も出資する形で法人化し、現在の株式会社ezuとなりました。私は、オンラインショップ、LINE、Instagramの運用設計やプロダクト展開など、経営戦略を支援しています。
オープンは月にわずか7日。それでも開店前から人が並ぶ理由は、広告に頼らず築いてきた、お客さまとの関係性にあります。

お客さまとの「最初の接点」はどこか
2024年、事業は順調に伸びていましたが、オンラインショップの売上は、頭打ち。
そこで私が見極めようとしたのは、「お客さまが、そもそもどこでezuと出会っているのか」です。
まず取り組んだのは、ウェブサイトの現状分析ではありません。お客さま一人ひとりへ、ezuをはじめて知った接点について丁寧にヒアリングしました。
すると、思わぬ事実が浮かび上がってきたのです。
「福岡の展示会で見ました」
「京都の展示会で知りました」
「東京のイベントで見ました」
最初の接点は、ウェブやSNSではなく、全国各地で行っていた展示会やポップアップでした。

展示会やポップアップは、交通費や出張費を考えると、単体ではほとんど利益が出ません。場合によっては赤字になることもあります。そうした理由もあって出展を控えていた時期もありました。
しかし、数字だけ見れば利益が出づらい場こそが、ご縁の入口だったのです。
出会いを「ご縁」に変える仕組みをつくる
私たちが取り組んだのはウェブやSNS単体の改善ではありません。
ECサイトのコンバージョン率を上げるUI・UXの調整、SNS投稿を増やす、広告を強化するなど、個別の施策でうまくいった話ではありません。実態は、もっと全体的な設計です。
- お客さまとの最初の接点がどこにあるのか分析する
- 接点を強化する
- 関係性が続く仕組みを構築・強化する
- 人から人へ広がる導線をつくる
私たちは、展示会やポップアップで出会ったお客さまとのご縁を、その場限りで終わらせない仕組みづくりを続けました。
展示会をきっかけにInstagramをフォローしたお客さまが、時間をかけてezuのことを好きになってくださる。結果、桐生市のアトリエまでお越しくださる方が増えていく。
こうして、出会いの場から、関係を続ける場へとつなぎます。
加えて、ezuのウェブサイトでは、販売員さんの声や、実際に着てくださっている方の声を、丁寧なインタビュー記事として掲載しています。

そして、この記事をまとめたパンフレットにして、インタビューにご協力いただいた方々にお渡ししています。内容は、1人につき6ページにわたります。
インタビューに出てくださるのは、美容室やコーヒーショップのオーナーなど、ご自身のお店やコミュニティを持つ方々。パンフレットをお渡しすると、自然とお店で配ってくださったり、周囲の方に紹介してくださったりします。
こちらから一方的に広告を打つのではなく、人が人を呼ぶ仕組みをつくる。売るための導線ではなく、関係を続けるための導線をつくる。
この積み重ねが、結果としてオンラインとリアル、双方の売上アップにつながります。
私は、顧客との接点と関係づくりを意識すれば、広告に大きく頼らずとも年商10億まで事業を育てられると考えています。マス・マーケティングの広告戦略よりも、顧客1人ひとりと濃い関係を築くほうが強いのだと、岩野さんとの経営で確信したのです。
スナックのママ・マーケティングが大切にすること
スナックのママは、お客さまの顔と好みを覚えています。家族やペットの話に耳を傾け、ときには店の悩みをこぼすこともある。お客さまはお店へ通ううちに、お店を支える存在になります。この関係性を、プロダクトとお客さまの間に築くのが、スナックのママ・マーケティングです。
一言でいえば「お客さまとの1対1のコミュニケーションを追求する」に尽きます。フォロワー数やエンゲージメント率などの中間指標は追いません。
関係が深まった証しは、お客さまがペットの写真や家族の話を送ってくださったとき。数字ではなく、預けていただいた思いや感情で関係を測ります。
- 「ペットや家族の写真など、プライベートなメッセージ」を重視
- お客さまとの個別対応を徹底
- ご縁を重ね、ともに育む姿勢を大事にする
ezuでは、LINE公式アカウントとInstagramのお客さま対応を、岩野さんが対応しています。お客さまとのコミュニケーションで、ブランドに対し個人の思いや感情を預けてくれる状態を目指します。
「先月、来店いただいたときにお怪我をされていましたね? その後はいかがですか?」
「購入いただいたあのワンピース、着心地はいかがでしたか?」
店舗であれ、オンラインコミュニケーションであれ、親しい友人のように接するのです。
現在、LINE公式アカウントのファンはおよそ300人。岩野さんは、お客さまがどのプロダクトを購入したのかを全て把握し、個別にやり取りしています。
再現は難しいと感じるかもしれませんが、お客さまへの思いと、一人ひとり向き合う姿勢があれば、業種を超えて実現できると私は考えています。

実践のポイント:弱みは、お客さまと“ともに育てる”伸びしろになる
この戦略はezuだからできたのではないかと思われる方は多いでしょう。ここでお伝えするのは、私がezuの事業運営で岩野さんから学んだ本質です。企業や個人がスナックのママ・マーケティングを実践するときに、大切だと思うポイントをまとめました。
① 「人が好きな人」を担当者にする
プロダクトへの愛着はあとから育てられますが、人への関心は個人特性に頼る必要があります。人付き合いが得意で、応援したくなるような方を担当に立てましょう。
② 担当者の「弱み」をさらけだす
担当者の所属や属性にあわせて、事業の弱みをオープンに発信します。
営業担当なら、目標へ奮闘する様子(100日後に単月黒字を達成しないと異動になるなど)。プロダクト担当なら、部材発注や製造過程で失敗してしまう様子。
わざと設定して演じるのではなく、本当に困っていることを、担当者本人の目線で、お客さま一人ひとりに相談するイメージで共有してみてください。
Instagram、TikTokなどのライブ配信がおすすめです。お客さまへ役立つ情報を届けるのみではなく、事業の「のびしろ」に共感し、応援してもらう、一緒に育てていくといった感覚です。

③不便・非効率は伸びしろ。お客さまとの余白を意識する
立地の悪さ、不便さも「弱み」=「のびしろ」になります。月7日しか開かない店、駅から歩く立地。一見マイナスに思える条件が、お客さまの関わる余白になるのです。
弱みをさらけ出した先に、「ともに育てる」風景が生まれます。
駅から店舗までの道で、ezuのプロダクトを着ていると目立ちます。すると、初対面にもかかわらず、ezuのファン同士がおしゃべりしながら店舗まで歩いてくるのです。
開店を待つ間、最前列のお客さまに値札づけやアイロンがけを手伝っていただくこともしばしばあります。先に入店したファンが、あとから来たお客さまに商品を説明してくれることもあります。
ezuのプロダクトは、着るたびに記憶が重なり、洗うたびにその人の服へと育っていきます。お客さま一人ひとりと対話しながら、Instagramやパンフレットに掲載する写真を送り合い、プロダクトの良さを語り合う場を重ねる。お客さまの体験とともに、ezuというブランドそのものが育てられていくのです。

まとめ
スナックのママ・マーケティングは、顧客を「買う人」から「応援する人」へ変えていくマーケティングです。お客さまを数字で扱うのではなく、顔の見える一人ひとりとして記憶し、対話し、自己開示し、ともにご縁をつなぎ、対話の記憶を重ねていく。
もし「広告に頼らない事業の育て方」に関心を持たれたら、まずは既存のお客さま10人に聞いてみてください。
「最初にうちを知ったきっかけは、何でしたか?」
その答えの中に、あなたの事業ならではの、ご縁の入口がきっと見つかります。地域ブランド、小規模事業、作り手の個性が強いブランドにとって、広告依存から脱却するヒントになれば幸いです。


