
CSR活動が形骸化しがちな昨今、分析を利用した企画提案が、老舗医療商社の経営方針に影響を与え、企業を動かしました。医療機器商社 中日本メディカルリンク株式会社と、美容・福祉分野を牽引する株式会社ディアローグコスメティクスとともに挑んだブランディング戦略を紹介します。
執筆:柳澤みゆき(上級ウェブ解析士)
編集:ふじね まゆこ(ウェブ解析士/上級SNSマネージャー)
CSR活動の形骸化から脱し、社内意識を高めたい
2030年のSDGs目標達成に向けて、企業の社会的責任が求められています。ただ、企業の社会貢献事業としては表面的なCSR活動となってしまい、社内意識が伴わないまま形骸化するケースは少なくないと思います。
同様の悩みから、社会課題に対し「自社としてできること」を考え、社会とともにより良い選択をする姿勢を貫いたのが、中日本メディカルリンク株式会社(中日本メディカルリンク)です。

同社は、医療機器・介護用品の販売から卸、メンテナンスまで展開する医療商社です。
長野県松本市に本社を置き、大正8年(1919年)の創業から100年以上、地域医療を支えてきた歴史があります。
CSR活動も、ペットボトルキャップ回収や、健康経営有料法人認定、ピンクリボン運動を行っていました。ただ、この活動が他社との差別化や、社内の意識向上に直接つながっていない懸念がありました。
- 活動が他社との差別化につながらない
- 社内意識が「やらされている感」「自分ごと化されづらい」
相談を受けた私は、「エシカル消費」に着目したマーケティング戦略を提案します。
株式会社ディアローグコスメティクス(ディアローグコスメティクス)をつなぎ、医療、美容、福祉、地域社会が共創する可能性を見出したのです。
エシカル消費とは「購入後の影響」まで想像する消費活動
「エシカル(倫理的)消費」とは、消費者が日々の買い物やサービス利用の中で、人や社会、地域環境に配慮した消費行動を指します。

フェアトレード認証を受けた商品の購入や、地域振興のため地元のお店を利用するなどの行動が、エシカル消費にあたります。
企業目線で考えると、製造・流通過程における影響を考え、環境へ配慮した取り組み(水資源の保全、容器包装の簡略化、労働環境の整備など)が代表的です。
エシカルなヘアケアブランド「幾重」の可能性
ディアローグコスメティクスが製造・販売するサロン向けシャンプー「幾重」は、美容・福祉・地域社会への持続可能性を意識した社会貢献性の高い商品です。

- 美容師の「手荒れ解消」を目標に開発。
- 低刺激・肌に優しい成分でありながら、ヘアケア効果も保つサロンクオリティ。
- 長野県木曽駒ヶ岳の天然雪解け水が原料の一部。環境負荷をなるべくかけない製造工程。
- 長野県木曽エリアのB型就労支援施設に製造工程の一部を委託。
加えて、ディアローグコスメティクスの親会社、ディアローグホールディングス社長 井口智明氏は長野県木曽町出身。都内に11店舗の美容室「ディアローグ」を展開する経営者で、人気YouTubeチャンネル「令和の虎」での活躍に加え、キャンプ場開設や、コンビニ事業、福祉施設(保育園)評価事業など精力的に活動する方です。
「幾重」が持つ可能性と、長野県の医療分野に貢献してきた医療機器商社としての、中日本メディカルリンクが連携できれば、地域課題解決と企業成長を両立する新しいモデルケースになる。
このねらいをもとに、戦略設計、プロジェクトマネジメント、メディア対応を支援しました。

戦略こそ私が設計しましたが、実行する企業・経営者の「強い思い」がなければ実現しません。中日本メディカルリンクを動かしたのは、障がい者就労の課題と「幾重」が目指す未来でした。
社長を本気にさせた、障がい者就労の実態と「幾重」の取り組み
就労継続支援B型事業所は、障がいなどの理由で、一般企業との雇用契約が難しい方に対し、働く機会と生産活動の場を提供する福祉サービスです。
就労継続支援B型事業所で働く人々の平均工賃(月額)は約23,000円前後。提案時、令和4年度は約17,000円前後でした。

障害者年金などの支援があっても、月額17,000円では経済的自立が難しいほか、継続的な就労機会を創出できなければ社会とのつながりも絶たれてしまいます。
“日本一給料の高い”B型支援施設を目指し、作業工賃は時給800円(支援当時)。働き方によって月額8万〜9万円の収入が得られるよう設定されており、施設内も清潔で働きやすい環境が整えられています。

企画の提案に際して、障がい者就労の現状(低賃金)を知り、長野県に就労支援に取り組む企業があることを、実際の工場見学で目の当たりにしていただきました。
PR TIMES 「令和の虎」出演の経営者が、“日本一給料の高い”障がい者就労支援施設をふるさとの木曽で目指す理由
“美容師の手とお客さまの髪に優しく、地元の人々にも優しい。加えて生分解性が高く、地球にも優しい。関わる人々の喜びが何重にもつながるように――。”
「幾重」に込められたコンセプトと取り組みが、中日本メディカルリンク 上野社長を動かします。
“「社会貢献」を掲げる企業として、このプロジェクトを活用したい。さらに本質的な社会貢献を目指したい。”
社会貢献を掲げる医療商社会社としてできることを考え、経営会議の末、定款を変更。医療・介護施設へのシャンプー販売事業をスタートしました。
単発のCSR活動で終わらせないエシカル(倫理的消費)を提案した3つのねらい
2社連携の相乗効果
美容業界と医療業界をつなげることで、両社の強みを活かし、社会的意義と事業性を両立する、競合がまねできない相乗効果を生むねらいがありました。
- ディアローグコスメティクスのメリット
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医療業界という、美容業界からリーチしづらい新たな市場を開拓。安定的な収益確保。
- 中日本メディカルリンクのメリット
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社会貢献性が高い商品を扱うことでブランドイメージが向上。
単なるCSR活動ではなく、競合がまねできない、会社独自の社会貢献を実施。採用、事業PRの両面でイメージアップできる。
地域社会へ波及効果
「幾重」自体が、長野県木曽エリアの自然環境、産業、労働の各分野へ影響力を持つことに加え、障がい者支援と領域が近い医療・介護施設への販路拡大によって、長野県内のエシカル消費活動が活性化する影響も考えられました。
- 長野県木曽エリア
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障がい者雇用の維持・促進地元産商品のPR・販売機会の創出
- 医療・介護業界
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同じ「手荒れ」という悩みを抱える医療職への共感「幾重」の商品性(肌に優しいシャンプー、購入が障害者の就労支援につながる事への共感と理解
医療従事者の「インサイト」
医療従事者は社会貢献への理解が深く、手荒れなど職業特有の悩みを抱えることから、「幾重」に共感する可能性が高いと考えられました。

医療機関へのプレマーケティングでは、機能性と社会性の両立が評価され、約6割が肯定的に回答。社会貢献性への理解があるほか、健康への情報感度が高いなど、医療機関ならではの特徴が見られました。
これらのねらいと分析から、「幾重」が医療業界にも受け入れられると確信しました。
プロジェクトを後押しした2つの施策
社内勉強会でSDGsを「自分ごと化」
医療機器を扱う中日本メディカルリンクにとって、シャンプーはまったくの異分野です。事業展開の前に、「幾重 」の商品特性と背景の理解を深める機会が必要でした。

そこで、約200人の営業メンバーに対し勉強会を実施し、次のポイントを踏まえて情報を共有しました。
- 自社が社会的課題に応える理由、ディアローグコスメティクスの施策とねらいを伝える。
- 「社員のSDGsに対する当事者意識が薄れがち」という課題解決を意識して共有する。
このほか、希望者がいれば、都度「I-WORK」への見学などを通じて、「幾重」の製造過程と社会的価値に触れる機会を作りました。
結果、社員のみなさんが「幾重」を自ら購入して試してみるなどの自発的な行動がみられるようになりました。当プロジェクトの課題のひとつ「社内のSDGsに対する当事者意識が薄れがち」が、解消に向かったと考えています。

ストーリーを「面」で伝えるPR戦略
本施策の中で、主軸に置いたのはPR戦略です。
業種、業態の異なる2社であるため、ウェブ上の情報は関連性がなく点在する状況です。特定のターゲットに複数回、情報接点を持ってもらうためには、「点」ではなく「面」で発信しなくてはなりません。

プレスリリースに注力したのは、社会貢献性が高いプロジェクトゆえに、媒体各社から取り上げてもらいやすい可能性も期待していましたいました。
結果、ディアローグコスメティクスで2件、中日本メディカルリンクで3件のプレスリリースを発表し、120媒体もの各種プラットフォームに取り上げていただくことができました。
プレスリリースの詳細と要点は、中野さんの事例記事をご一読ください。

プロジェクト後、社内外から思わぬ反響も
私は今回のプロジェクトを通じて、関係者全員が社会活動の主体になれる仕組みを組み立てました。
結果、中日本メディカルリンクの営業メンバーだけでなく、内勤メンバーからも「工場見学を経て意識が変わった」とコメントをいただいています。
上野社長からいただいた「会社の全員で取り組む社会活動がしたい」という課題に応えることができたと感じました。
また、当初想定していた医療従事者だけでなく、医薬の商社も取り扱いが増えて、医療業界全体へ広がりを見せています。
病院内の売店で「幾重」を置いていただく取り組みも始まりました。売店は患者さんだけでなく看護師の夜勤時など、院内スタッフが利用します。加えて、地域向けのイベント(病院祭)でも出店し、通院中の患者さんやご家族にもPRの機会を設けました。
まとめ:物事を動かすのは「本質」と「ストーリー」
今回のプロジェクトを通じて、あらためて、マーケティングは手法よりも「本質」が先にあるべきだと強く感じました。
「なんのために、なにをするのか」
この問いに答えなければ、どれだけ施策を積み上げても、プロジェクトは動きません。
「全社を上げて、障がい者・地域の課題解決のために、このプロジェクトを活用したい。」
中日本メディカルリンク 上野社長の、社会課題への気付きと強い思いがなければ、定款を変え事業に組み込むほどのプロジェクトには至らなかったと思います。
私は、プロジェクトの企画段階で必ず「そこに欲望はあるか? 」と、問いかけます。
あなたの企画・戦略のなかで、「(ユーザーの)欲望」は何か注目してみてください。
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自社サイトをコストで終わらせないために 事例集62

