
動画、SNS、AIなど、ツールの使い方や活用が注目されがちな昨今。 顧客に選ばれるためには、顧客の課題を深く理解し、適切な手段で、適切なメッセージを届けることが必要です。本事例では、不動産関連事業を展開する株式会社ランドピアが実践するマーケティングの考え方と、YouTube戦略の成果をご紹介します。
執筆:小佐野 宇志(ウェブ解析士マスター)
編集:ふじね まゆこ(ウェブ解析士/上級SNSマネージャー)
ランドピアが3カ月で登録者16,000人を実現した背景
株式会社ランドピアのご紹介

私が所属する株式会社ランドピアは「不動産の有効利用を通じて、活力ある経済社会の実現に貢献する」を理念に掲げ、土地オーナーの課題に向き合う不動産ソリューション企業です。
事業の原点は、1992年に代表 吉田が始めた土地活用事業(土地のサブリース:土地の所有者から借りた土地を運用し、収益を得る事業形態)です。
この取り組みの延長線上で生まれたトランクルーム事業「スペースプラス®」は、屋外コンテナ型に加え屋内型も展開し、現在では全国540店舗にまで成長しています。

さらに、市街化調整区域や建蔽率・容積率などの制限で建物が建てられない土地には「トレーラーハウス事務所」を展開し、自治体の受動喫煙防止対策には段差がなく車椅子でも利用できる「バリアフリー喫煙コンテナ」を提供するなど、土地の用途、形状、お客さまのニーズに応じた柔軟な提案が強みです。


顧客課題に多方面から応える実践的マーケティングとは
私は、ランドピアの取締役マーケティング部長として、事業の認知施策からバックエンドの整備まで横断的に担当しています。
ランドピア入社前は、10年以上にわたりWebマーケティングおよびデジタル戦略の立案に携わり、企業のブランド構築や集客改善、サイトUX/UI設計などを率いてきました。
ランドピアは、代表の柔軟な発想と課題解決力と、さらにはデジタルマーケティングにおける市場分析と課題発見が循環することで、多角的な事業展開を実現しています。
ウェブやITによる課題解決は、事業全体のほんの一部です。
顧客の課題解決、価値提供において必要なことは、以下の3つの視点をもって理解することだと思います。
- 顧客の“本音”を見抜き、それに応える“商品・サービスの開発”
- 伝えたい相手に届くように考え抜かれた戦略的アプローチ ※決してウェブが最善とは限らない
- 顧客の反応を見ながらの商品・サービス改善、検証のサイクル
事業推進であれ、採用であれ、この3つの視点は欠かせません。詳細は、「自社サイトをコストで終わらせないために」事例集64 にまとめています。
今回は、書籍に掲載していない「YouTubeチャンネルの運用」に絞ってまとめてみました。商品の認知拡大、採用活動でYouTube活用を検討する方の参考になれば幸いです。
採用も商品PRも!成果を生んだYouTube運用
ランドピアでは、商材PRと採用の目的ごとに、YouTubeチャンネルを運用しています。
コンテナ建築や土地活用を深く伝える「コンテナ建築LABO」と、会社の雰囲気を広く知ってもらう「ランドピア公式チャンネル」です。


2025年4月に開設後、両チャンネルとも3カ月で登録者数16,000名超へと成長しました。
運用体制は、社内メンバー3名と、外部制作会社へ企画・撮影・分析を依頼し、管理しています。
【商材PR】深く理解を促す「コンテナ建築LABO」
「コンテナ建築LABO」は、コンテナ建築事業「コンテナプラス®」の認知向上からスタートしました。
当初はコンテナオフィスのみを扱っていましたが、同じくコンテナを活用したトランクルームやトレーラーハウスまで対象を広げ、土地活用の幅広い選択肢を紹介するチャンネルへと発展しています。

長尺動画を中心とすることで、専門性や施工の裏側を丁寧に伝えられる点が特徴です。
視聴をきっかけに問い合わせが増え、顧客から「動画を見た」と反応が届くなど、実際の商談にも直結しています。
登録者数は、1年で100〜200名を想定していたところ、結果的に約1万6千人まで増加。コンテナ建築事業への関心の高さを裏付ける成果となりました。
【採用】会社の雰囲気が伝わる「ランドピア公式チャンネル」
一方、「ランドピア公式チャンネル」は、ショート動画を中心に展開しています。

社員インタビューやクイズ形式の企画など、軽快さと誠実さを両立させた内容を意識し、「明るくて楽しそうな会社」だと伝わる印象づくりに力を入れています。
最近は、「動画で会社の雰囲気を見て興味を持った」と言われることが増えました。動画がきっかけで応募いただくケースも出てきており、大きな成果だと感じています。
なお、両チャンネルとも、登録数や再生回数そのものはKPIにしていません。
あくまで「視聴を通じて会社や商材への理解が深まり、問い合わせや応募につながること」をKSFとしています。
ランドピアでは現在、メンバーを募集中です! 弊社の取り組みに興味を持ってくださった方は、お問い合わせください。
YouTubeやSNSは「始めない」判断も必要
SNS運用は気軽に始められる一方で、炎上リスクや運用負荷が大きい領域です。
ランドピアでは、運用前に企業としての発信方針と発信基準を明示し、投稿前に複数部門が確認するプロセスを組み込んでいます。
私を含めたディレクションメンバー3名がディレクションを担い、チェックツールも活用しながら慎重に運用しています。
YouTube運営の判断基準は、 「自由に発信できる状態ではなく、きちんと管理できる体制が整っているか」。この一点に尽きます。
体制が整わない場合は、無理に始めるべきではないでしょう。
考え方と運用のポイント
今回の取り組みで大事にしてきたのは、「動画企画の切り口」と「運用時の姿勢」です。読者のみなさんも応用しやすい抽象度の高いポイントをお伝えすると、次の4つに集約できます。
- 目的は数字よりも「理解・信頼の醸成」を重視する
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YouTubeを「問い合わせや応募につながる“理解促進メディア”」と位置づけ、短期的な再生数ではなく、視聴後の行動を重視しました。数字を追いすぎないことで、長期的に積み上がるコンテンツ作りがしやすくなります。
- 顧客視点のテーマ設定=不安・疑問の代弁者になる
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テーマは常に「視聴者が本当に知りたいこと」を目指しました。視聴者のニーズすべてに応えられるわけではありませんが、視聴者の不安・疑問を代弁する構成が、結果的に視聴維持や回遊につながったと思います。
- 小さく作って改善し続ける
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最初から完璧を目指さず、「企画 → 公開 → 反応を確認 → 次に活かす」のシンプルなサイクルで運用中です。反応の良い動画の傾向を掴みながら、チャンネル全体を少しずつ調整すれば、無理なく続けられます。
- 目的に応じた動画の使い分け
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商材説明の長尺動画と、企業の雰囲気を伝えるショート動画は別物として扱いました。視聴者の期待値を揃えられるため、満足度が高くなり、結果として登録も増えやすくなります。
これらは特別なノウハウではなく、どの企業でも取り入れられる考え方です。自社の状況に合わせて、できるものから取り入れるだけでも、動画の質や視聴者反応が大きく変わります。
まとめ:実践的マーケティングを地道に重ねていきましょう!
ランドピアは、顧客課題に向き合い、現場から改善を積み重ねる本質的姿勢を大切にしています。
事業支援やマーケティング推進に携わるみなさまは、 日々「どうすればサービスや企業の価値が正しく伝わるか」を考えておられると思います。 ランドピアも同じ問いに向き合う毎日です。
YouTubeをはじめとしたデジタル施策は、単なる情報発信ではありません。 「理解し、共感し、行動してもらうための場」として設計することが何より重要だと感じています。
完璧な状態で始める必要はありません。 しかし、目的を明確にし、現場の声を取り入れながら、社内で共通認識を持って進めることが成功の鍵になると考えています。
今回の取り組みが、みなさまの支援先での戦略設計や推進活動のヒントになれば幸いです。
そしてこれからも、ともに企業と社会をより良い形でつなぐマーケティングを実践していければと思います。

