
こんにちは。ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している、株式会社ピージェーエージェント代表取締役の加藤です。
自社の商品やサービスにとっての理想の顧客像を、実在する人物のように詳細に作り上げた架空の人物像である「ペルソナ」。マーケティング活動を推進する過程で、おそらく、あなたも一度を作ったことがあるのではないでしょうか?
しかし、多くの企業が時間と労力をかけて立派なペルソナ資料を作成しているにもかかわらず、実際の現場ではほとんど参照されず、会議の場でも共有されないまま“存在だけしているペルソナ”になってしまうケースは少なくありません。なぜ本来、強力な意思決定ツールであるはずのペルソナが、すぐに形骸化してしまうのでしょうか。
その大きな要因の一つは、「細かく作り込むほど良いペルソナになる」という誤解にあります。年収、趣味、休日の過ごし方、家族構成、愛読書、通勤ルート・・・。リアルさを追い求めた結果、情報が過剰になり、かえって施策判断に使いにくくなってしまうのです。現場の担当者からすると、「この細かい設定、本当に意識しなければいけないのか?」という疑問が積み重なり、次第にペルソナは“見るもの”から“見なくなるもの”へと変わっていきます。
本記事では、そんなペルソナ疲れの状態から脱却し、実務で本当に機能する「ゆるペルソナ」という考え方について解説します。完璧さではなく、使われ続けることを重視したペルソナは、マーケティングの迷いを減らし、施策のスピードと質を着実に高めてくれるはずです。ペルソナとの向き合い方を根本から見直していきましょう。
なぜ「細かすぎるペルソナ」は機能しなくなるのか
「リアルな顧客像を描くことが重要だ」と聞くと、ついペルソナを細かく設定しすぎてしまいます。年齢や性別だけでなく、年収、家族構成、休日の過ごし方、好きなブランド、SNSの利用状況、通勤時間、さらには性格タイプに至るまで、まるで一人の人物を“作り込む”かのように設計してしまうのです。しかし、その情報は本当にマーケティングの意思決定に直結しているでしょうか。
細かすぎるペルソナが機能しなくなる最大の理由は、「判断のスピードを落とす存在になってしまうこと」にあります。本来ペルソナは、「この施策は誰に向けているのか?」という問いに即座に答えるための“判断軸”であるはずです。しかし情報が多すぎると、「この設定通りに考えると、この施策は合っているのか?」と迷いが生まれ、現場はペルソナではなく担当者の感覚に頼るようになります。その結果、せっかく作ったペルソナは形だけの存在になってしまうのです。
さらにもう一つの問題は、ペルソナが「現実とかけ離れた理想像」になってしまうことです。細部にこだわりすぎると、実際の顧客とのズレが生じ、「この人、本当にいるのか?」という違和感が現場に広がります。この違和感こそが、ペルソナへの信頼低下を引き起こす最大の要因です。結果として、ペルソナは参考資料ではなくただの“飾り”となり、マーケティングの現場から遠ざかっていきます。
「ゆるペルソナ」という考え方
ペルソナ設計において本当に重要なのは、「どれだけ精緻に描かれているか」ではなく、「日々の意思決定で使われ続けているか」です。そこで、弊社ではクライアント企業様に対して、「ゆるペルソナ」という考え方を提唱しています。これは、完璧な人物像を作ろうとするのではなく、現場が迷ったときに立ち返れる“判断のよりどころ”として機能することを最優先にした設計思想です。
ゆるペルソナの最大の特徴は、あえて情報を絞ることにあります。年収や趣味、ライフスタイルといった細かな設定ではなく、「どんな課題を抱えているのか」「なぜそれを解決したいのか」「どんな不安が購買のブレーキになるのか」といった、行動に直結する要素にフォーカスします。これにより、施策を考える際も「このペルソナならどう感じるか?」という問いに対して、チーム全体が同じ方向を向いて議論できるようになります。
また、ゆるペルソナは“固定された人物”ではなく、“仮説としての顧客像”という位置づけです。市場や顧客の変化に合わせて柔軟に更新できるため、「一度作ったら変えてはいけないもの」という心理的ハードルも低くなります。その結果、ペルソナはただの資料として保存される存在ではなく、日常の会話や意思決定に自然に登場する共通言語へと変わっていきます。
精度を追い求めすぎて動けなくなるよりも、「今、使えるかどうか」を基準にする。これこそが、ゆるペルソナ設計が実務で力を発揮する最大の理由だと言えるでしょう。
実務で活きるペルソナに必要な要素とは
実務で活きるペルソナを設計するうえで意識すべきポイントは、「情報量」ではなく「判断に使えるかどうか」です。どれだけ細かく設定されていても、施策の方向性を決める際に参照されないのであれば、そのペルソナは機能しているとは言えません。では、現場で本当に役立つペルソナには、どのような要素が必要なのでしょうか。
まず欠かせないのは、「解決したい課題」と「その背景」です。顧客はなぜその商品やサービスに興味を持つのか、どのような状況で情報を探し、何に悩んでいるのか。この“課題の文脈”が明確であるほど、施策の切り口や訴求ポイントは自然と定まります。次に重要なのが、「判断基準と不安要素」です。価格、信頼性、導入の手間、社内稟議のハードルなど、意思決定に影響する心理的・実務的要因を把握しておくことで、コミュニケーションの精度が高まります。
一方で、趣味や休日の過ごし方、細かなライフスタイルなどは、直接施策に影響しない限り思い切って削って構いません。大切なのは「このペルソナは、どんな場面で、どんな気持ちで意思決定をしているのか」をチーム全体が共有できることです。その輪郭が揃えば、細部に多少の曖昧さがあっても、マーケティングの判断は十分にブレにくくなります。
実務で活きるペルソナとは、リアルな人物像ではなく、“行動の理由が説明できる顧客像”なのです。
ペルソナを“作って終わり”にしない運用設計
ペルソナが機能しない最大の原因は、その質ではなく「運用されていないこと」にあります。どれほど考え抜いて設計しても、ただの資料として保存されているだけでは意味がありません。実務で活きるペルソナにするためには、「作ったあと、どう使い続けるか」という運用設計が欠かせないのです。
まず重要なのは、ペルソナを“見るもの”から“使うもの”へと位置づけを変えることです。施策の企画会議やクリエイティブ検討の場で、「この施策は〇〇ペルソナの課題にどう応えているか?」「この表現は不安を解消できているか?」と、自然に言葉として登場する状態をつくることが理想です。そのためには、ペルソナを作りっぱなしで放置するのではなく、資料や施策をレビューする際の運用プロセスに組み込み、常に参照される工夫をする必要があります。
また、ペルソナは“固定情報”ではなく、仮説であると捉えることも重要です。実際の顧客との接点やデータから得られた気づきをもとに、定期的に見直しを行う仕組みを持つことで、現場とのズレを防げます。「運用しながら育てる」という姿勢があることで、ペルソナは机上の理想像ではなく、現場に寄り添う実践的な指針へと変わっていくのです。
ペルソナを活かす鍵は、完成度ではなく“関わり続ける仕組み”にあります。
「ゆるペルソナ」がマーケティング成果に与える変化
「ゆるペルソナ」を導入すると、マーケティング現場の空気が変わり始めます。これまで「この施策、なんとなく良さそう」「過去と同じやり方でいこう」と感覚に頼っていた意思決定が、「このペルソナの課題に本当に刺さるか?」という共通の視点で語られるようになるのです。この変化は、数字以上に大きな意味を持つと弊社では考えています。
例えば、Webサイトの訴求文を考える場面。細かすぎるペルソナでは「休日にこう過ごす人だから、この表現は合うか?」と迷いが生じがちですが、ゆるペルソナでは「この人は〇〇に不安を感じている」という軸に集中できるため、メッセージの一貫性が生まれます。その結果、コンテンツの方向性が明確になり、訴求ブレが減少します。
さらに、意思決定のスピードも向上します。完璧な正解を探すのではなく、「このペルソナ視点で妥当かどうか」を基準に判断できるため、会議や施策検討の迷いが減り、実行までのリードタイムが短縮されるのです。
ゆるペルソナは、成果を直接押し上げる“魔法のツール”ではありません。しかし、判断の質とスピードを安定させることで、結果としてマーケティング全体の再現性と成果を着実に底上げしていく存在となります。
ペルソナは「縛るもの」ではなく「導くもの」
ペルソナは本来、現場の思考を縛るための「ルール」ではなく、迷ったときに進む方向を示してくれる「コンパス」のような存在であるはずです。しかし現実には、「このペルソナ設定に合っているかどうか」という確認作業が優先され、柔軟な発想や判断を阻害してしまうケースも少なくありません。それでは本末転倒です。
本当に意味のあるペルソナとは、完璧な人物像ではなく、「この顧客の立場に立って考えよう」とチームの視点を揃えるための共通言語です。だからこそ、細部にこだわりすぎるよりも、実務で活用され続けることを重視し、必要に応じて見直し、進化させていく姿勢が求められます。
ゆるペルソナ設計は、マーケティングの判断をシンプルにし、迷いを減らし、チームの思考を同じ方向へと導いてくれます。ペルソナに振り回されるのではなく、ペルソナを味方につける。その意識の転換こそが、成果につながるマーケティングへの第一歩になるはずです!

