
ウェブマーケティングを強化したくても、組織自体がDXに消極的で、取り組みが進まないケースは少なくありません。
本記事では、ウェブマーケティング推進のためにツールやコンサルタントの導入に頼るのではなく、組織内の理解と協力体制を地道に整え、ウェブマーケティングを進めやすい組織へ変えた事例を紹介します。
執筆:南谷 信介(ウェブ解析士マスター)
編集:ふじね まゆこ(ウェブ解析士/上級SNSマネージャー)
100人規模の組織で、ウェブマーケティングの実行体制を整えるまで
ウェブマーケティングは広く浸透しつつありますが、業界によっては、いまだにコストがかかるだけの部署と見なされるケースがあります。
AIを含む高機能ツールの導入や、大規模な広告キャンペーンなどの施策を提案しても、なかなか承認されず悩む担当者は多いのではないでしょうか。

私は前職で、製造業・建設業・運輸業といったブルーカラー専門の求人サイトのインハウス運用に9年間携わるなか、こうした状況を打破するために、組織全体でウェブマーケティングを推進する環境構築に焦点を当てました。
当時の組織は、自社の営業活動(求人サイトへの掲載数を増やす)に対し、実態の把握がしやすいこともあって、施策への理解が早い傾向がありました。
一方、ウェブマーケティングは、どの活動が売上に寄与するのか伝わりづらく、リソースに対する成果がすぐ出るわけでもなく、運用・改善を繰り返しながら売上に寄与する側面から、なかなか新しい施策への理解が得られませんでした。
- 営業:売上を立てる=求人サイトへの掲載企業を増やす。
- サービス(制作):求人サイトのシステム管理・サイト運用
- ウェブマーケティング:求人サイトへの求職者訪問を促す
実践したい施策を提案しても、組織に理解してもらえなければ実行に移せません。
土台には、他部門と経営陣との信頼関係と、施策への利点を感じてもらえないと連携してもらえないのです。
文字にすれば当たりまえかもしれませんが、こうした現場と他部門・経営との衝突は枚挙にいとまがないのではないでしょうか。

そのような状況から、私がいたウェブマーケティングチームがチームをこえて連携と理解を働きかけ、これまでバラバラだった活動が体系化され、組織的にウェブマーケティングを推進できる体制を実現できました。
データが伝わる共通言語の浸透と、他チームと信頼関係を構築できたのです。
結果、当時無名だった求人サイトから、東海エリアトップクラスの求人サイトに成長させることができました。
ちなみに、この動きのきっかけは私ですが、組織のトップの理解、組織・チームの努力と、当時の外部環境も多いに影響した結果です。かつ、結果が出るまで7年〜8年かかっています。
施策が思うように理解されないとき。私の知見がお役に立てたら嬉しいです。
組織を動かすには、全体像と自分の立ち位置の把握が欠かせない
この取り組みが始まる前、現場では以下のような課題が深刻化していました。
- ウェブマーケティングの必要性は感じているが、何から手をつければいいかわからない。
- 上司や他部署など、周囲の理解や協力を得られない。
- ウェブ担当者がコストセンターと見なされ、社内での影響力が低い。
- ソフト面(組織理解や協力関係)の整備が不十分なまま、ハード面(ツールや施策)の導入を進めると、失敗に終わる可能性が高い。
このような課題に対し、担当者としてどのような関係構築と仕組みが有効だったか、アプローチを3つにまとめました。
担当者に実践してほしい3つのアプローチ
ウェブマーケティングが機能する組織には、良好な人間関係と仕組みの両方が欠かせません。私が実際に取り組んだ3つのアプローチを紹介します。
【ポイント1】協力者を増やす関係構築術
もっとも重要なのは人間関係です。特に、ウェブやITに不慣れな現場では、地道なコミュニケーションが成功の鍵を握ります。
まず取り組むべきは、直属の上司との協力関係構築です。自分と上司の「強み」と「弱み」を客観的に分析し、互いに補完し合える関係を築きます。
例えば、上司が周囲に任せる業務と、抱え込む業務を整理してみましょう。上司が抱える仕事を知るのは難しく感じると思いますが、事業全体を俯瞰すれば予測できます。
私の場合は、日報へのフィードバックで頻出する単語を手がかりに、上司の関心や得意分野を仮説立てし、雑談の中から苦手領域も探っていきました。
そうしたやり取りを重ねるうちに、上司がITに苦手意識を持っていることに気づきました。
そこで、上司が苦手なITツールやウェブの知見を私から提供するかわりに、上司が得意な社内調整や段取りのノウハウを学ぶ形で関係を築いたのです。
ここでの鉄則は、共通認識ができるまでは専門用語を使わないことです。いきなり「CPC」や「CVR」といった言葉を使っても、相手は拒絶反応を示すでしょう。「1クリックあたりの単価です」と丁寧に説明し、解釈をそろえる努力を怠らないことが、信頼関係の第一歩です。
上司との関係が深まれば、他部署との連携も始めてみましょう。接点が少ない部署であっても、こちらから困っていそうな課題に対し支援する「先行型アプローチ」をとってみてください。
一方的に協力を依頼するのではなく、まずこちらから課題解決を支援し、「この部署と連携するとメリットがある」と感じてもらうのです。
これにより、顧客情報や競合情報といった、ウェブマーケティングの精度を向上させる情報が自然と集まるようになります。
【ポイント2】活動を見える化し、評価の仕組みをつくる体系図づくり
協力関係の土台ができたら、次は活動や施策といった「ハード面」の整備です。
ここでもいきなり複雑な解析ツールを導入してはいけません。
まずは、全部署が売上という共通目標に向けてどのような活動をしているか俯瞰できる体系図を作成します。
これは、各路線の役割とつながりが可視化された地下鉄の路線図のようなものです。ブレインストーミングやKJ法を用いて関係者と議論しながら作成すれば、組織全体の活動への理解が深まり、共有しやすくなります。

| 項目 | 説明 |
| 共通目標 | 事業が目指す最終ゴール |
| 評価活動 | 目標達成の成果を判断する活動(目標が採用ならば、応募対応など) |
| 活動 | 目標に向けて必要な施策、行動 |
採用目的であれば、以下のような体系図が考えられます。
ご自身の事業は、どのようなルートで共通目標(=成果)を目指しているのか、書き出してみましょう。

さらに、AISASなどの購買行動モデルを、自社の実態に合わせて調整し、ウェブマーケティング施策と連携させることで、「どの施策が共通目標の達成に寄与しているか」が明確になり、リソースの集中と最適化ができるようになります。
【ポイント3】自社に資産を残すパートナー戦略「ミドルインハウス」という考え方
施策を実行に移す際、外部の専門会社(パートナー)の活用も選択肢に入ります。
ここで注意したいのがパートナーとの連携の仕方です。すべてを丸投げ(アウトソース)してしまうと、契約終了時にアカウントの所有権や蓄積されたデータが失われてしまうリスクがあります。
そこでおすすめしたいのが「ミドルインハウス」という考え方です。これは、アカウントやデータの所有権は自社で保持しつつ、運用ノウハウや人的支援をパートナーから受ける形式です。

将来的にパートナーを変更することになっても、これまでの投資やデータは社内に残ります。
デジタルマーケティングでは、広告、ウェブサイト、SNSなどのログデータを分析することが重要です。私としては、まだ多くの企業がログデータの存在や重要性に気づいていないと考えています。
これらのデータの意味や活用方法を社内に理解してもらうための教育も、デジタルマーケティングの土台として欠かせません。
まとめ:組織を動かし、成果を出すための第一歩
ウェブに不慣れな現場でマーケティングを実践可能にする要諦は、以下の3つのアプローチを、状況に応じて並行して、あるいは順を追って進めることです。
- チーム内の協力関係から始め、社内の協力者を増やす。
- 活動を体系化して、分かりやすい評価の仕組みを作る。
- 適切なタイミングでパートナーの支援を頼り、「ミドルインハウス」の考え方でデータ資産を残す。
組織を動かす本質は、全体像の俯瞰と関係構築にあります。本記事で紹介したコミュニケーションと情報提供、そして仕組みづくりが、継続的な成果を生み出す鍵となります。
まずは専門用語を使わずに解釈をそろえる小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。それが、あなたの会社にウェブマーケティングを根づかせるための、確実な第一歩となるはずです。
勉強会「自社サイトをコストで終わらせないために」のご案内
2026年4月18日(土) 開催の勉強会「第70回「自社サイトをコストで終わらせないために」では、組織の仕組みづくりの全体像をお伝えします。
勉強会では、記事で紹介した3つのアプローチに加え、トップの理解を得るための実践も含めて解説します。

テーマ「成果が回り続ける仕組みの作り方」
チーム内協力、運用施策整備、組織・トップの理解というウェブマーケティング環境構築に不可欠な三本の柱がどのように構造化され、完成形へと至ったのか、その全体像を俯瞰します。あわせて、環境が未整備で自社認知も乏しかった当時の、泥臭い試行錯誤も振り返ります。専門用語を使わず共通認識の醸成、リスティング広告のムダ排除によるデータの質の向上、購買モデルに基づいた施策選択など、現場で一歩ずつ仕組みを積み上げた実践ステップを共有します。さらに、運用者から「翻訳者」へと役割を転換し、活動の体系図を軸に他チームやパートナーを巻き込みながら、成果が回り続ける構造設計のリアルを紐解きます。
提案の実践法則 2026/4/18 第70回 「自社サイトをコストで終わらせないために」 より抜粋
この勉強会でお伝えする内容は、後日、電子書籍にまとめられる予定です。
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