AIに仕事を任せたウェブコンサルタントは、なぜ仕事を失うのか──連載のはじめに

目次

あるプロジェクトの終わり

ある会社のウェブ解析を請け負っているウェブコンサルタントがいます。最近はAIのおかげで、仕事がずいぶん楽になりました。Google Analytics(GA)の数字をAIに渡せば、月次レポートも改善案も数分でできあがります。

報告会でレポートを説明し改善策を提案すると、クライアントの担当者はうなずいて言いました。「まあ、そうですよね……」。担当者が見せてくれたパソコンには、同じようにデータをAIに入れ、もっと細かいレポートが作ってありました。

担当者は、ウェブコンサルタントの提案の根拠をひとつ尋ねました。「この数字から、なぜこの施策になるんですか」。ウェブコンサルタントは答えられません。「AIの分析では、こう出ていまして……」。会議室の空気が変わりました。

さらに質問が続きます。「どんなデータを使いました?うちの顧客リストもAIに入れたんですか」。ウェブコンサルタントは、顧客リストもAIにアップロードしていました。そのほうが良い答えが返ってくるからです。けれども、担当者の承認をもらっていませんでした。「でも学習をオフにしてありますし、有料版なのでたぶん大丈夫です」。担当者は何も答えませんでした。

翌週、Slackに短い連絡が届きます。「来月から、社内でやることになりました。これまでありがとうございました」。プロジェクトは終わりました。

担当者は、同じAIで、もっと細かいレポートを自分で作っていた
担当者は、同じAIで、もっと細かいレポートを自分で作っていた

このウェブコンサルタントは、AIを使いこなしているつもりでした。何が足りなかったのでしょうか。

ウェブコンサルタントは専門家で、AIを使う時間も十分にあります。それなのにこのウェブコンサルタントは、AIで手間を省いた仕事をこれまでどおり納め、情報を集める時間が取れないクライアントから、これまでと同じ金額を受け取り続けていました。AIで浮いた時間を使って、クライアントに新しい価値を足すことはしていませんでした。

私は、こんなウェブコンサルタントは早く仕事を失ったほうがいいと思っています。クライアントの方にもお伝えします。AIと同じ仕事しかできないウェブコンサルタントと契約しているなら、すぐにやめてください。そして、AIにはできない形で事業を加速させられるウェブコンサルタントと契約してください。

本題に入る前に、6つの問いに○か×で答えてください。

問1 AIがレポートも改善案も作れるようになった。ウェブコンサルタントは、もういらない。

問2 AI時代に差がつくのは、優れたAIを使うことと、プロンプトの書き方だ。

問3 GAの標準レポートと探索をAIで読みこなせば、お客さまのことは分かる。

問4 学習をオフにしたAIが出した分析なら、データをすべてAIに読み込ませて、そのままクライアントに出してよい。

問5 AIによる検索が広がれば、人はサイトに来なくなる。自社サイトに力を入れる意味は薄れる。

問6 顧客データを1つにまとめる仕組みや高度なデジタルマーケティングは、大企業が高価な製品を入れてやるものだ。中小企業には関係ない。

答えは、この連載の各節で確かめてください。どの問いも、答えを「知っている」だけでは役に立ちません。自分の手で仕組みを作り、データを集め、AIの答えを確かめられて、はじめて冒頭のウェブコンサルタントと違う結末を迎えられます。

この連載でできるようになること

この連載を読み、手を動かすと次の3つの力が身につきます。

  • AI利用:AIに任せる範囲を決め、RとMCPで分析の過程を残し、複数のAIとGitで開発する(問4)
  • データ入力(インプット):GTM(Google タグマネージャー)でお客さまをステージに分けて計測し、Cookieを守り、AIのクローラーも計測して、データの量と質を上げる(問2・問3・問5)
  • 表現(アウトプット):BigQueryとSQLで分析し、伝わる形で可視化し、Search Consoleや顧客リストと結びつけて施策につなげる(問1・問6)

この連載の読み方

この連載は5部構成です。第1部では、ウェブコンサルタントがすべき本当の仕事を考えます。第2部ではGAのレポートに出ないデータを集める方法、第3部ではAIに渡すデータの質を上げる方法を取り上げます。第4部では、AIの平均的な答えに丸められず、人が問いを立てて特異点を見つけます。第5部では、AIと協働しながら、あなたが仕事をする価値を確かめます。

各節の終わりには「やってみよう」を置きました。無料のサーバーに作ったWordPressのサイトと、Googleの公開サンプルデータを使います。計測の設定から分析まで、一通り自分の手で試せます。準備の手順は付録にまとめました。複雑な前処理は、私が公開しているオープンソースの分析基盤「WACA core/WACA path」に任せることができます。

題材には、ウェブ解析士協会(WACA)のサイトを使います。約16,000人の会員(2026年10月末時点)を抱える協会のサイトで、どんな設計をし、どんな数字が出ているのかを実データで示します。お客さまが特定されないよう、事例は匿名にしています。

ただし、読み始める前にひとつだけ約束してください。

守っていただきたいこと

この連載では、消えてしまうCookieを維持する仕組みや、顧客の行動を一人ずつつなぐ方法も扱います。強い技術です。だからこそ、お客さまの同意を得たうえで、お客さまの満足と事業の成果のためだけに使ってください。データはお客さまから預かっているものです。個人情報をAIにそのまま渡さない設計も、この連載の大切なテーマです。

AIの出力を人が確かめる
AIの出力を人が確かめる

分析も施策もレポートも、AIに任せられます。けれども、問いを持つのは人です。確かめるのも人です。この連載が、AIと一緒に、クライアントとお客さまの答えを探す分析者になるための手がかりになればうれしく思います。

読者の手元で、GAとGTMが待っている
読者の手元で、GAとGTMが待っている

この連載は、私が講師を務めるWACAマーケティングテクノロジスト講座の内容をもとにしています。

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

WACA一般社団法人ウェブ解析士協会代表理事

2000年、株式会社環を創業、2016年株式会社 環 取締役会長退任。業界ではもっとも早い時期からアクセス解析に着目し、アクセス解析を軸にしたコンサルティングを行っている。
アクセス解析ASPサービス「アクセス刑事Pro」、「シビラ」を自社開発、運営、アクセス解析からエリアマーケティングを行う「エリアレポート」を提供している。
著書に「稼ぐホームページ損なホームページ―アクセス解析で一発判明!」「繁盛するWebの秘訣「ウェブ解析入門」
~Web担当者が知っておくべきKPIの活用と実践」がある。

目次